ICM Mar.13, 2009

[ オーバーレイネットワークにおける経路重複を利用した計測手法 ]
Overlay network = Skype とか BitTorrent とか、IP ネットワーク上に構築された論理的なネットワーク。ふつうはエンドポイントに実装するが、ルータ上に実装するルータオーバーレイネットワークを提案。ルータに実装するので効率的なオーバーレイトラフィックの制御ができる。
バンド幅測定の手法はどうかんがえている? (田中先生) → 今回は計測戦略についてなので、具体的にはあまり考えていない → パスを短く区切って測定すると、end-to-end で測定するのに比べて誤差がたまりそうですが → 関連研究で、それでも 80% くらいは信頼できる、というデータが出ている。
[ P2P ファイル共有システムにおけるクエリトレンドパターンの分析 ]
P2P なファイル共有システムでは LRU とかで peer の保持するキャッシュが管理されるが、いわゆる「急上昇キーワード」があるので、実際にはキャッシュの生存期間に行く前にみんなが冷めちゃって、キャッシュは無駄になることが多い。
P2P のサービスをクロールしてキーワードを収集。Winny は peer の回線速度によって階層化されるため、速いネットワークにつながっているpeer (回線速度は自己申告) にクエリが集中するので、そこでデータ収集を行った。1ヶ月計測で、ちゃんとべき乗則に従った結果になった。
クエリの推移パターンを FFT で処理し、クエリの類似度を計算。Ward法でクラスタリング。
これ面白いな。
キャッシュの生存期間を決めるには、クエリが減ってからでは遅くて、予測をせねばならないと思うのですが → 今後の課題ということでした。
いろいろなパターンをみせていただいたが、正規化する前の生の値が見てみたいです。急激に増えて急激に落ちるようなのは実際に人気があるのか、とか。→ 3割くらいがそういうキーワードでした。
[ 複数のオーバレイネットワークにおける残余通信時間を考慮した強調ルーティング ]
オーバーレイネットワークの利点: ふつうの IP ルーティングによるのではなく、自前で経路をもてるので自由度が高い。でも、こういうのが増えると、帯域を食い合ったりする。
既存の協調ルーティングでは、新規トラフィックが既存のトラフィックのバンド幅をどれくらい奪うかを計算し、全体としてなるべく影響が小さくなるようにする (全体を見回してやるのは無理なので、ノードごと)。でも、与える影響の持続時間を考慮していない。ファイル転送を例に、タスク完了に必要な残余時間を考慮した協調ルーティング手法を提案・評価。
もともと転送時間がわかっている前提のように見えるが? → まあ、ふつうの、すでに送った割合で計算で、必ずしも正確でなくてもいいので。
[ ノード性能を考慮した非対称 DHT の提案 ]
DHT = Distributed Hash Table: P2P な overlaid network を使ったデータ構造。
すべてのノードが全体のルーティングテーブルを所持する (対称的)。でもこれはルーティングテーブルの維持が大変。
非対称 DHT では、バンド幅や計算能力などノードの性能に応じて高性能・低性能に分ける。高性能ノードは全体のルーティングテーブルを、低性能ノードは規定数の高性能ノードが見つかるまでルーティングテーブルを拡大。
低性能ノードのルーティングテーブルが小さければ通信量はけっこう減るが、データの取得に失敗する確率が高くなる。でも、挙動の説明できないところも・・・
[ 分散データベースにおける透過的データ利用環境の実現 ]
高知工科大の人類学のプロジェクトで作っている分散 DB の話。かっこいい。実際に使うものを作る、というのはいいね。
[ 定額制 VOD 型 IP 放送におけるユーザ便益と事業者収益に基づく視聴料金設定 ]
ちゃんとユーザ便益と事業者収益について、ゲーム理論をやっている。いいね。
事業者が利益を追求しすぎるとユーザが離れていっちゃうわけで。

ICM Mar.12, 2009: ICM2008-58-66

12日午前中分。
[ TDMA 型無線メッシュネットワークにおける負荷分散および電波干渉軽減のためのスパニングツリー構築法 ]
無線のマルチホップ網を使って、バケツリレーで外に出る。でも、これだとゲートウェイノードに通信が集中する。それから、リンク間の電波干渉も問題。
blocking metric をもとに電波干渉を抑えるツリーを構築。
ゲートウェイノードを複数設置し、アクセス回線の利用率を均等化するために、どこから外に出るか、というのを最適化する。
スループットは最大 3.1 倍。経路なんかを計算するのは 200 倍速い。
ホップ数の増加による伝送遅延が心配、とのこと。
O(n^4) が O(n^3) に抑えられそう、というのはなぜ? → ツリーの構築が O(n^3) で、ホップ数の閾値を変えながら最大 n 回のツリー再構築が必要だが、実質的には 1 回か 2 回ですみそうなので。
これは電波干渉を計算するために、事前に配置情報がわかっていないと使えないんじゃないかなー、と思うのですが、おとなしくしてました。
[ 無線メッシュネットワークにおける電波干渉および経路長を考慮した電力制御手法 ]
無線の出力レベルを制御することで電波干渉を減らす。干渉が減れば、TDMA でもたくさんのタイムスロットが取得できる。でも、遠くまで飛ばなくなるので、ホップ数が増える可能性があって、バランスをとることが重要になる。
電力制御は集中制御で行う。
方法1: ノード次数を見る
ほかのリンクとの干渉の可能性が高い、次数の大きなメッシュノードがもつリンクを削除
方法2: ノードの干渉数を見る
干渉領域内に存在するノード数が多いもの
しかし、このどちらも、局所的にホップ数の大きな経路ができてしまう可能性があるので、これらの手法を適用した後にホップ数を考える。
25% くらいフレーム長 (送信に必要なタイムスロット数) が削減できる。
手法間の比較をもうすこしがんばってー。こういうの、ぱっと見すぐ終わっちゃいそうな研究かと思ったんだが (すみません…)、いろいろ掘り下げるとかなり面白そうだ。
[ MANET におけるノードの隣接関係を基にしたルーティング手法の提案 ]
MANET = Mobile Ad-hoc NETwork. マルチホップ通信。
センサネットワークもそう。で、この手のものの多くはバッテリ駆動。
ぬおーん。途中で仕事の電話がかかってきてしまった。
MBC というこの手法をやるために、いろいろ negotiation をするのでパケットが増えてない? → フラッディングしない、というのがポイントで、そこで減っていると思うのですが → フラッディングに相当することを各ノードがやっているのでは…
[ 無線マルチホップ網における隣接ノード間連携に基づく自律的バーストアクセス制御 ]
無線マルチホップ網における TCP 通信の公平性とか。
送信権を獲得するために backoff algorithm を使うと、毎パケット backoff time 分待たなければならないので、その分スループットが低下する。802.11e では RTS/CTS (request to send / clear to send) を使って TXOP limit と呼ばれる時間までバースト転送を行うことができる。しかし、ネットワークの状況変化に対する適応性がないこと、送信権の獲得が乱数に基づくこと、が問題。
一定の時間ごとに隣接端末間でのパケット転送数の目標数を設定し、送信を行うときにはその目標と実績を照らし合わせて転送サイズを決定。
この方式のキモは、個々の端末が知りうる局所情報だけを用いて制御するところ。
隣接ノードのネゴシエーションが結局 backoff 時間分になっちゃうのでは? → RTS/CTS のパケットに情報を付け足すだけだから、たいしたことないです。通信当事者だけでやるんで、全体にデータが流れたりすることはない。
どれくらい公平性が上がったか、あるいはスループットが向上したか、といったところをもうちょっと評価したらいいのでは → がんばります。
[ 家電製品のネットワーク化の展開に関する一検討 ]
白物家電のネットワーク化。いろいろあって結局のところ普及していないが、細かいエネルギ管理に使えるのではないか?
ネットワークセキュリティが心配だが、ネットワーク化されるとメーカはどこでどれだけ使用されているかが把握できるので、製品リコールなどのときの対応が容易なので、そのあたりの安心感がセキュリティリスクを越えられるか?
[ SDH/OTN 統合ネットワーク管理方式の一考察 ]
OTN が拡がってきているが、既存のサービスを収容するための SDH もまだまだ重要。そこで、OTN と SDH を相互接続する必要性が出てきている。
Ring in Ring: SDH のリングが実際には OTN のリングに収容されているようなトポロジ構成。
SDH で何ホップかあるような場合に、SDH 装置を順番に通っていく必要があるので、何度も SDH と OTN を行ったり来たりする。
[ ホームネットワーク故障切り分け方式の検討: 効率的な故障診断のための可視化 ]
Flet’s みたいなサービスを保守するための可視化ツールの話。流れているパケットを眺めて、どういう機材がつながってるのか、NAT がどういう構成になってるとか、そういうのを情報収集する。
むーん。
こういうの作るのは難しいな。わしゃ、中がどうなってるかわからない機材が家の gateway になっているのとかが我慢ならないので、家の出入り口は FreeBSD なわけですが。というかまあ、そういう、自分で故障診断する人はどうでもいいのか。
セキュリティも大事だが、こうやって局側から診断してくれるサービスのための何か、というのも必要だな。
[ ASパス詐称経路ハイジャックの検出手法の検討 ]
AS = 自律システム。
つまり、間違ったルーティング情報を (故意にしろ不意にしろ) 流してしまって事件が起きる、というのを検出したりする。
これには、隣接関係を評価すればよい。
同じ subnet を名乗るやつが二つ現れた場合、検出はできるが防御はできない。妥当性の評価は隣接関係で行う。
事例としてはどんなのがある? → パキスタン政府がパキスタンの ISP に対して youtube.com への経路をハイジャックするように指示し、その経路情報が間違って外に出ちゃったことがある (うひー)。
IRR にはどんな情報がある? → 現状IRR にはだいたい下流の AS しか入れていないが、この手法が有効であることを主張して、みんながすべての隣接 AS を入れるようになればいいと思う。
[ インターネットバイパス網のアドレス構成に関する考察 ]
コネクション型のネットワークに IP トラフィックを載せる。IP アドレスをネットワークのトポロジに対応した転送アドレスに変換すれば、交換機の負担を軽減することができる。
しかし、マルチキャストはやっかいだ!
バイパス網のほうが輻輳しちゃって、バイパスしなければよかった、ということになったら? たとえば、トラフィックが増えてきたらバイパス網に回すとかすればいいと思うが → その場合にはふつうの IP のほうを圧縮して対応するが、どうしても足りなくなった場合のことはこれから考えなければならない。

MacBook のディスク

VMware で CAD を動かす環境を持っていたりする関係で、MacBook のディスクがほとんどいっぱいになっており、250GB のうち 230GB 以上を使った状態になっていたのだけれど、残り 20GB だと、ちょっとでかい計算をして結果を保存すればいっぱいになっちゃう。というわけで、500GB のハードディスク買った。ぷらっとオンライン で 11,000 円。もっと安い通販はたくさんありそうだけど、普段仕事でお世話になっている業者さん、という安心感は大きいよね。営業の人の顔も見えるし、何かとオンラインで済む時代になったけど、人と人のつながりっていうのは大事だと思います。
moge.tiff
というわけで、500GB になった。Mac のすばらしいところは、OSのインストールからアプリケーションの再インストールとアップデートまで、2,3時間で終わるということ。自分のホームディレクトリの移行は、Unix ユーザならおなじみの rsync で、大事なディレクトリからはじめればすぐに作業マシンとして使えるようになるし、あとは寝ている間にでもやっておけばよい。
データの移行は、けっこう前に買った、玄人志向の怪しげな SATA (2.5inch) – USB 変換ボックスを使ったのだけれど、40MB/sec くらい出ており、まあ、USB の限界までびしっと使えるということで、いい感じ。まあ、ハードディスクはもっと速いと思うので、本当は Firewire 800 とか eSATA があればいいんだけど、MacBook にはどっちもないからね…

しほんしゅぎのふしぎ

安全カミソリを京都のホテルに忘れてきちゃったので、奄美のホテルのとなりにあったでっかい薬局に買いにいったわけです。
そしたら、同じ Schick Quatro 4 で、
普通のやつ (替え刃1枚つき) > 電気でぶるぶるするやつ (替え刃1枚付き) > 電気でぶるぶるするやつ (替え刃3枚+シェービングフォームつき)
という不思議な価格構成でした。一番デラックスなやつにしたぜ!
でも、帰りは飛行機に乗る前にシェービングフォームのスプレー缶捨てなきゃなあ。

ふね

マルエーフェリー琉球エキスプレス という船にのって奄美大島にきました。で、この体験記のページをみて、ちょっとびびってたのですが、非常に快適でした。
2等寝台B (+2000円)、というのだったのですが、8人部屋に大阪のおじいちゃんとふたり。彼によると、窓口で2等寝台A (+6000円) との違いを聞いたら、定員が違って洗面所があるだけで、ベッドは同じなんだそうだ。じゃ、こっちのほうがいいよね。二人だし、4000円引きだし。
海をみて黄昏れて、また海をみて黄昏れて。
種子島でかかった。
でかい島の近くを通ると携帯電話がつながるのがおもしろかった。
ま、写真とかはまた、そのうち。

The Language of God

「夜明け前」を読み終えたので、次の本はこれ。
ヒトゲノムプロジェクトの大物、Francis S. Collins 先生が書いた “The Language of God” という本を読んでいる。彼は科学者であると同時にクリスチャンであり、科学と信仰、という二項対立で語られがちなテーマについて、それが矛盾しないものである、ということを説いた本。
序章にこんな記述がある。

This rising cacophony of antagonistic voices leaves many sincere observers confused and disheartened. Reasonable people conclude that they are forced to choose between these two unappetizing extremes, neither of which offers much comfort. Disillusioned by the stridency of organized religion, slipping instead into various forms of antiscientific thinking, shallow spirituality, or simple apathy. Others decide to accept the value of both science and spirit, but compartmentalize these parts of their spiritual and material existence to avoid any uneasiness about apparent conflicts.

日本語にするのは面倒だな。下手な訳で申し訳ないです (英語を日本語に直す、というのはすごく久しぶりだ…)。

(科学と信仰に関する) 対立意見の不協和音の高まりは、たくさんのふつうの人々を混乱させ、また、がっかりさせてしまった。理屈のわかる人たちは、どちらも充分に納得がいくものでないと知りつつも、そのどちらかを選択しなければならないと気づいている。彼らは既存のかっちりした宗教を捨てて、さまざまな形の非科学的な考えや、浅薄なスピリチュアリティ、あるいはただの無神論へと移っていった。あるいは他の人は両方の価値を受け入れつつも、これらをそれぞれ精神と物質の問題として区別し、そこにある明確な矛盾を避けようとしている。

アメリカでは創造論を語る人たちの一部が行き過ぎてしまった (と、僕は思っているが、これについての意見はさまざまだと思う) おかげで、進化論と創造論、という対立が、科学と宗教、あるいは科学と聖書の対立のように語られてしまっている面があるのだけれど、進化論を受け入れることと、初めに神天地を造り給いし、という聖書の言葉を信じることは矛盾しない、と主張するのがこの本であり、そしてその主張は決して間違いではないと思う。
僕自身も、一応なんとなく生命科学をやっている (本職はやっぱり計算機科学なんですが) 研究者であり、神学にも興味を持つクリスチャンでもあり、でも、そこにはなんの矛盾もない、むしろ、キリスト教の神様というのはきわめて scientific な存在である、と思う。この著者がいうところの、「神様の言葉」であるゲノムを読み解く、とか、あるいはそれから構成される細胞のしくみの数理モデルを解き明かす、というのは、僕らが「どうやって」生きているのかを知る、その最前線であり、ものすごくエキサイティングな仕事だ。科学は「なぜ」生きているのか、という問いには答えてくれないけれど、”How” と “Why” の間をつなぐのは、人それぞれの重要な仕事であると思う。
一方でこれは、日本の心ある科学者の多くが憂慮しているニセ科学の問題と深いつながりがあるのではないか、と思う。この国には宗教というものがない、というのがまた問題をややこしくしていて、ニセ科学というのはある意味で、科学の顔をしてやってくる新興宗教なのではないか、と思う。つまり、宗教っぽいものと科学っぽいものを、うまく調和させて見せてくるところに、その気持ち悪さと、拡がりやすさがあるわけです。みんなもうちょっと理科を勉強していれば、こんなことにはならないと思うんだが。
ま、例によって、読み終わるまでにまた2ヶ月くらいかかると思うので、またちょこちょこ書こうと思います。