ゲノム微生物学会 Mar.08 / 産業微生物シンポジウム

[ 実用菌株を中心とした麹菌のゲノム進化の解析と醸造特性との関連について ]
Aspergillus は基本的に glucose と無機塩類があれば育つので、米麦大豆などとの共進化、みたいなのは特にないらしい。ゲノムは数 % の違い。
実際に、清酒と醤油を同じ菌でつくることもできるらしい。
でも、清酒と醤油では培地が違うし、自然に歴史のなかで用途によって適したものが使い分けられてきている、ということらしい。
毒素とかは 2/3 の株遺伝子群がで欠落しており、持っているものでも発現はしていない。
[ ゲノム解析に基づいた清酒酵母の醸造特性の解析 ]
清酒の香り成分などは酵母 (S. cerevisiae に似ている) によって作られる。
S. cerevisiae は一倍体だが、清酒酵母は通常二倍体 (一倍体でも増殖する) 。
低温でよく増殖する、生成酒の香味が優れている、諸味で高泡を形成する、ビオチン非要求性、などが特徴。
DSCN1899.JPG
協会7号酵母のゲノムはほぼアセンブルが終わっている。実験室酵母とほぼ同じだが、いくつかの染色体で小さな逆位があったりする。
DSCN1901.JPG
清酒酵母に特異的な遺伝子 (高泡を形成する遺伝子は AWA1 だ!) の多くは、染色体の両端に存在する。
実験室酵母にあって清酒酵母にない遺伝子やその逆は数えるほどしかない。
ビオチンを作る遺伝子 bio6 と bio1 がクラスタを形成し、4つの染色体の末端に存在。清酒・焼酎酵母だけがこれらを持っていて、ビオチンを合成する。
DSCN1903.JPG
DSCN1904.JPG
DSCN1905.JPG
産業上重要な遺伝的形質の多くは量的形質。エタノール生産性とかね。これに関わる遺伝子座を調べるのが QTL analysis.
清酒酵母・実験室酵母それぞれ一倍体を交雑してヘテロ二倍体を作り、それで胞子分離一倍体を得る。これで醸造を行い、DNA マーカーで各種遺伝子の由来 (実験室酵母か醸造酵母か) を調べながら量的形質との関連を探る。
DSCN1907.JPG
DSCN1908.JPG
DSCN1911.JPG
DSCN1912.JPG
DSCN1913.JPG
DSCN1914.JPG
QTL 解析の結果、実験室酵母のほうが醸造酵母よりも生産性が高い物質もある → 改良の余地があることがわかる。
実験室酵母はずっとみんなが増やしているので、実際に飼っているものとの配列の違いが問題に問題になったりしない? → 遺伝子があるとかないとか、そういう大きな違いのところから始めているので問題ない。
[ 下面発酵酵母の減数分裂分離体を用いたQTL解析 ]
下面発酵酵母は S. cerevisiae ではなく、S. pastorianus.
ワイン酵母系の染色体と cerevisiae 系の染色体を両方もっているが、それらが交雑してしまうことはない。
完全長ゲノムはまだない。ビール大手3社がそれぞれドラフト配列を持っている状態。
DSCN1920.JPG
QTL 解析をするには遺伝子マーカーを使うが、マーカーの数を増やせば解像度が上がる、というものではない。というのは、交配によってすべてのマーカー間の依存関係を完全に断ち切れるだけの個体を用意しなければならないから。ただ、死んじゃう胞子がけっこうあったりする上に、それをひとつひとつ genotype して発酵試験もしなければいけないので、とても大変。
DSCN1921.JPG
実験の話が中心でよくわかりませんでした。すいません、、、
[ 地下生命圏におけるメタゲノム解析 ]
ODP: Ocean Drilling Program の掘削コア堆積物中に 1cc あたり 100,000 を超える!
地下生命圏は質量にして地球上の生命圏の 90% を占めるが、海底以下 100m をこえるとほとんどは死んでいたりする、静かな世界。
でも、プレート境界域とか、油田ガス田鉱山といった、水やエネルギーの流れのある場所ではそれに依存した活動的な生態系が生じる。
活動的地下生命圏は条件に依存した、わりと多様性の低い環境。それに対して、海底は非常に複雑。
DSCN1926.JPG
菱刈金山:
30% が Archaea。16S rRNA の多様性は極めて低い。
末端配列から Bacteria / Archaea の判別がだいたいできることがわかったので、全ゲノム解析中。
ひとつの Archaea (HWCG I) についてはほぼ全長 (1.7M) が決まっている。
冷湧水域堆積物中における嫌気的メタン酸化群集の解析:
メタンハイドレートなど由来の高濃度メタンを含む海水で生きている連中。
メタン生成に関する遺伝子のほとんどすべてがメタゲノムライブラリから検出され、メタン酸化をメタン生成菌の逆反応でやっていることがわかった。すごいなー。
鉱山酸性排水バイオマット:
MS を使った初めてのコミュニティプロテオミクス。
微生物多様性の高い海底下生命圏への挑戦:
16S しかわからないやつとか、山のようにいる。
DSCN1930.JPG
DSCN1931.JPG
複雑さとしては、土壌 > 海底 > 腸内 > sargasso sea.
メタゲノムの問題は、基本的に数が多いやつのゲノムだけが見えちゃって「重要だけど少ない」連中のゲノムをとってくるにはものすごくお金がかかること。
これをなんとかしていくには single cell genomics が必要。培養しなくていいしね。
いい菌をとってきた、と思っても single cell genomics な時代だと、もう誰かが読んじゃっておいしいところをもっていかれているかも。これからは地球化学や微生物生態学と、いまゲノムとか応用微生物学をやってるひとが仲良くしないと欧米に勝てないぞ!
[ Lactobacillus brevis KB290のゲノム解析、および抗生物質耐性試験 ]
KB290: 京都の漬物「すぐき」から分離した。
すぐれた耐酸性があり、腸内への到達性が高い。
安全性評価のためにゲノムを解読。109 contigs, 2.4Mbp.
病原因子がないか (日和見感染とかがないか)?
– no virulence gene at cutoff of 10^-10
– 安全性調査のためのデータベース: MvirDB
薬剤耐性がないか (他の菌にうつるおそれがあるので)?
– 欧州にはそういうガイドラインがある
– vancomycin, tetracycline, ciprofloxacin への耐性がガイドラインの数倍。でも、本当にヤバい菌は基準値の 100 倍とかになるらしい!!
– 基準値を超えているので、接合伝達試験をして、他の菌に移るかどうかを試す。相手は E. feaecalis FA2-2 (腸球菌かな?) 問題なかった。
– 既知の耐性遺伝子が存在しないことも確認した。欧州の基準ではその他の耐性遺伝子がないことを確認することも求めており、それもクリア。
– point mutation でものすごく耐性がでることがあるので、そういうのもチェック。
など。とりあえず安全そう。テストって大変だなー。みんなやってるの??
DSCN1935.JPG
マウスや人でのテストも問題なし。というか、既にみんな食べているやつなわけで。
腸管への付着性も評価。
腸管付着因子として知られているタンパク質がどれくらいあるかを調べたが、
残念ながら実験の結果も検索の結果も、あまり高くない。
ゲノムでテストをしたほうがコストとかのメリットがある? → もともと食べられていたものなので、最初にマウスとかでやる必要はなかった。ゲノムによる情報も実験と同じくらい重要で効果的であると考えている。動物実験は外部に委託するので、数千万円というお金がかかり、ゲノム解析の方が安い部分もある。
Lactobacillus の病原性としてはどのようなものが考えられる? → DB にあるのは薬剤耐性の translocation。
Translocation は host が病的な状態であるときに問題になることがあり、動物実験をしないといけない部分がある。

コメントを残す