科研費ゲノム特定成果公開シンポ: Day 1

午後から参加。微妙に遅刻したところを U 先生に見つかってしまいました。えへへ。
廊下で立ち話して、最近の進捗をお伺いする。お手伝いできることがありそうなのでがんばります。
[ 土壌での微生物の生き様をゲノムから見る ]
津田先生@東北大。
土壌汚染物質を添加して、時系列でメタゲノム。菌叢が大きく変わるの、面白いな−。
しかし、メタゲノムやると、16s rRNA は 99% データベースに当たらない暗黒な世界なのだそうで、それはどうやったら解決できるのかね?
[ 麹菌のゲノム情報を活用した有用タンパク質の高生産 ]
五味先生@東北大。
「もやしもん」で微生物に興味を持つ高校生が多いのかー。
洗剤のアルカリ・リパーゼは麹菌の組み替え株で大量生産しているのだそうな。
固体培養 (麹培養) と液体培養では全然生産性が違う。低水分ストレスとかが効いてるのかな。
いろんな転写因子を網羅的に高発現させてみた。
麹菌に遺伝子導入をして工業的に使う、というのは既にいろいろやられているのだけれど、麹菌はプロテアーゼとかペプチダーゼを大量に作る (しかもものすごい種類を持っている!) ので、遺伝子導入してもせっかく作ったタンパク質を壊してしまう。
タンパク質分解酵素に関連する転写因子をみつけてそれを破壊してみたところ、多くのプロテアーゼの活性を抑えることができ、収量が改善した。
[ 病原性大腸菌の比較ゲノム解析とその応用 ]
林先生。
O157 ではふたつの IS (IS629, ISEc8) が飛び回っており、ファージのところに頻繁に入っている。
2回のPCRでO157であるかと、どの株であるかを特定することができるプライマーセットを作った。これは、集団感染であるかどうかを診断するために非常に有用で、制限酵素+パルスフィールドよりずっと速く、簡単。TOYOBOでキット化しており、診断に使われている。
日本では O157 >> O26 > O111 だけど Non-O157 の割合が増えてきている。欧州などではO157 の割合は比較的少なく O121 > O91 > O103 > O128 > …
O26, O111, O103 の配列を決定したが、ゲノムワイド系統解析では O157 とはまったく別になるものの、遺伝子クラスタに基づく解析だと EHEC は同じグループになり、並行進化していることがわかった。
Non-O157 EHEC のラムダ型ファージも、O157同様に III 型分泌器をもっていたり、プラスミドが同じような病原遺伝子セットをコードしている。でも、プラスミド間で相同性があるのは病原遺伝子の領域だけで、もともと同じプラスミドを獲得してきたわけではなさそう。
O157 とウシとの関わりはこれからやらないといけない。直腸の出口あたりにかなりの長期間定住しており、ウシでは病気は引き起こさない。一種の常在細菌といえるかも。
[ メダカの研究から発生、進化、病気のメカニズムを理解する ]
武田先生@東大。
メダカの内臓逆位個体では繊毛のモータータンパク質の欠失による腎臓病 (多発性嚢胞腎) や精子の運動性低下が起きる。ヒトでも繊毛の運動性低下が原因の遺伝性疾患があるが、同じ遺伝子の塩基多型が原因で発生することがわかった。
背腹の形成に異常がある変異体 (お腹も背中も丸くて銀色で、背びれと腹びれが同じ大きさ) もある。これの原因領域には2つの遺伝子があるだけだが、これらのコード領域は同じ。しかし、変異体では転写制御領域に変異があって発言パターンが異常になっていた。
メダカはいろいろな変異体が愛好家によって飼われていて、ゲノムも一倍体なのでいい感じ。金魚は四倍体?
[ 立襟鞭毛虫のゲノム情報から動物の多細胞化を探る ]
岩部先生@京大。
Monosiga ovata. 淡水性。64Mbp. 2万遺伝子。
海水性のは 42Mbp で、9000遺伝子くらい。
チロシンキナーゼは動物特異的だと思われてきたが、立襟鞭毛虫でも見つかっており、分子進化系統樹を書くと面白い。ほかにも動物特異的に多様化したと考えられていたシグナル伝達分子があり、それらは今後の課題。
イソギンチャク (刺胞動物): 神経系あり。
センモウヒラムシ (板状動物): 細胞が4〜5種類。神経系がない。
とかの微妙なところを含めて比較ゲノム解析してみた。
これすごいなー。
カドヘリンは僕らは細胞接着に使うけど、立襟鞭毛虫も持っている。襟のあたりでエサを捕まえるとか、なにか違うことに使っているのかも?
[ マウス亜種間ゲノム分化を利用した複合形質の遺伝解剖 ]
城石先生@遺伝研。
Mus musculus は地域ごとにいろんな亜種がある (北米には元々いなかった!)。
世の中で使われている実験系統 (C57BL/6J) は西ヨーロッパ産亜種。
遺伝研では三島でつかまえたマウスから日本産亜種の系統 (MSM/Ms: MSM=MiShiMa) を確立。 亜種間の塩基置換率は 0.87% くらい。
MSM/Ms はキャピラリーで 2.4x, Solexa で 15x で読んで貼り付けて、99% coverage. 11,742,976 SNPs. うち、Non-synon. SNPs (アミノ産置換あり) が 26.000. Non-sense mutations は 131 遺伝子で見つかった (0.5%!)。
MSM/Ms は体のサイズが約半分、発がん抵抗性が高い、エネルギー代謝系が節約型、など、表現形のレベルでいろいろな違いがある。
亜種間交配によって特定の染色体だけが別の亜種由来なもの (コンソミック系統) をすべての染色体について作った。
多くの量的形質については、単に足し算と引き算だけで成り立つ (全部足したら100%になる) のではなく、全部足すと100よりずっと大きくなる (遺伝的交互作用=epistatsis が強い) ことがわかった。

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